“革は一生モノだから”
って言葉聞いたことありませんか?
僕自身革製品を販売をしていた時からこの言葉をお客さんから何度も聞いたことがありました。
10年以上革製品業界に勤めている僕が数多の革製品を使って実感した、革製品の強度やそれを追求することで伴うメリット・デメリット、長く使う上での手入れ方法などを踏まえて、革製品は一生使うことができるのかについて解説します。
結論を先にお伝えすると
使用頻度や手入れ方法、革の厚みによっては使えるものもある!
ただし、ほとんどの革製品の場合は難しい。
ということをご説明します。
また、ここでお話するのは一般的によく使われている革(牛、馬、鹿、ヤギなど)を前提とした解説となっており、エキゾチックレザー(ワニ、ヘビ、エイ、その他希少動物など)は含まれていないので、その点も合わせてご理解頂けたら幸いです。
革製品に求められていること
多くの方が革製品を買うにあたって求めている点はほぼ同じだと思います。
それは、
- 長く使える丈夫さ、強度
- 経年変化(エイジング)を楽しむ
の2点だと思います。
ここからは革製品の強度について深く掘り下げていきます。
革製品の強度を決めるポイント
革製品の強度については色々な要素が関係してきます。
それは
- なめしの技法
- 革の厚み
- 繊維の密度
- 商品の仕上げ方
- リペア可能かどうか
などです。
なめしの技法
なめしの技法には大きく3通りあります。
- タンニンなめし
- クロムなめし
- 混合なめし
です。
タンニンなめし
自然由来のタンニン(渋)を利用して時間をかけてなめす技法。
特徴は
- 使用するにつれてタンニンの化学変化により経年変化を楽しめる
- 革を傷めず本来の自然な仕上がりになる
- 厚い革でもなめすことが可能で仕上がりは硬い
クロムなめし
薬品を使ってなめす技法で、タンニンなめしよりも早く仕上げることができる。
特徴は
- タンニンなめしの革よりも水に強い
- 薄くても丈夫で柔らかく仕上がる
- 発色が良い
混合なめし
その名の通りタンニンなめしとクロムなめしを合わせた技法。
特徴はタンニン、クロムなめしの中間に位置するイメージで
- クロムなめしよりも経年変化を楽しめる
- タンニンなめしよりも柔らかく仕上がる
どのなめし方が一番丈夫なの?
どのなめし方にも特徴があり、それぞれのメリット・デメリットはあります。
ただ、ここではひたすらに丈夫な革を作るという点にだけスポットを当ててお話します。
結論から言うと、タンニンなめしが丈夫な革を作るにあたって適しています。
理由は革の厚みを持たせて固く仕上げることができるからです。
正直一概に丈夫な革といっても難しく、どんな動物の皮を使うか、革の厚みはどのくらいに仕上げるかなど、条件次第で色々な結論が出てしまうのですが、
革の厚みというところが強度に関しては重要になってくるのでこの結論になります。
アイテムによっては厚い革を使えない場合もあるので、そういったものは同じ厚みで比較するとクロムなめしのほうが強度が高い、といった物もあります。
なので、一概にタンニンなめしが良いというわけではありません。
革の厚み
なめしの技法で結論は出ましたが、革の厚みに関しては
厚ければ厚いほど丈夫
という結論になります。
革は使っていくと摩耗し、擦り切れることがあります。
そういったことを出来る限り防ぐためにはある程度の革の厚みは必要になってきます。
繊維の密度
丈夫さには繊維の密度も重要です。
どれだけ厚くて硬い革を使用していても、繊維密度が低いとどんどん柔らかくなっていき、繊維がほぐれてフカフカになってしまいます。
繊維の密度は使用している動物の産地や部位によって変わります。
例えば牛革だと、ヨーロッパ原産(最高級の牛はほぼヨーロッパ原産)のバット部位(背中からお尻にかけての一番繊維密度が高い部位)が一番密度が高いと言われています。
牛革でなくても、よく革小物界隈で耳にするコードバンは馬のお尻の部分を使用しており、こちらも繊維密度が高いので丈夫とされています。
他の動物の場合はあまり部位ごとに切り分けられることはありませんが、結論として
繊維密度が高いものほど丈夫
ということになります。
商品の仕上げ方
革の状態でどんな物が丈夫なのかを解説したところで、次は商品になった後の話です。
革製品を作るにあたって必ず行われる作業工程の内に漉きの作業があります。
漉きとは商品を形作るにあたって適正な厚みに革を調整する作業です。
大体の商品は、まず全体の革の厚みを調整し、その後作るにあたって厚すぎる箇所をを部分的に漉いていきます。
職人の技術力が高い丁寧な仕上げのものや、裏地や芯材(革と裏地の間に使う生地)を使用したものは細部に渡って細かく漉かれています。
繊細な小物などを作る上で絶対に必要で、職人の技術力が発揮されるところなのですが、ここで思い出してください。
革の厚みは製品の丈夫さを大きく左右します。
いい商品ほど繊細に仕上げられているのですが、結論から言うと
あまり漉かれていなく、かつ簡単な作りで裏地が付いていないものほど丈夫な製品
の傾向があります。
漉かれていないことで厚みが保たれるのは当然ながら、裏地をつけないことで革の厚みをあまり調整せずに済む(裏地を付ける場合、その分革を薄くしないと美しく仕上がらない)ので、全体的に厚く仕上げることができるからです。
もちろん小物などは特に漉きの作業が重要になってくるでそのバランスを見極めて製品を選ぶことが大切です。
また、裏地が生地ではなく革の場合は強度が変わってきます。
ただ、簡単な作りの場合はリペアも簡単で、かつ縫う箇所が少ない分針を通した際の穴も減るので丈夫になります。
リペア可能かどうか
多くの革製品メーカーではリペアができることを謳っています。
糸のほつれや金具交換などは無料で行ってくれる所も多いです。
通常使う分には簡単な修理を行うだけで構わないのですが、長く使うと起きる破損があります。
それは
製品本体の擦り切れや破れです
この破損は、例えば交換可能な箇所(ハンドルやショルダーストラップなど)の場合大体のメーカーで対応可能であることがあります。
ですが、例えばカバンや財布などの本体に穴が空いてしまった場合、修理不可の場合が多いです。
大手ハイブランドメーカーの場合は高額の修理費を支払うことで可能の場合がありますが、高額な修理費を支払うよりも新品を購入したほうがいい場合もあります。
なので、基本的には擦り切れや破れることが無いように大切に扱うか、破れる心配がない厚みのある革を使用した製品、もしくは破れてもメーカーが対応可能かは事前に確認しておいたほうが良いです。
また、昨今では腕の良いリペア専門会社もあるので、メーカーで断られた場合にはそちらで依頼する方法もあります。
まとめ:丈夫な革製品とは?
まとめると
- 革の厚みがある
- 繊維密度が高い
- シンプルな作り
- リペアが可能
という条件を満たした革製品が一番丈夫な革製品ということになります。
丈夫さを追求した革製品のメリット・デメリット
ここまで読んで頂いた方は丈夫な革製品はどういったものかが何となく理解して頂けたかと思います。
じゃあこの基準で商品を選べば良いのか!!
と思っている方、ちょっと待って下さい!
仮に上記全てを満たした製品は本当に欲しいものですか?
丈夫さを追求した製品のメリットとデメリットをお話します。
メリット
とにかく丈夫
言わずもがな丈夫です。
むしろ丈夫過ぎます笑
一つのものに愛着を持って長く使える方や、こだわりがなくとにかく丈夫な物が欲しい方には良い選択です。
コストパフォーマンスが良い
まめに買い換える必要がないためその分お金がかかりません。
そもそも革製品なので使い方を間違わなければ大体はある程度長く使えるのですが、適切な手入れをしつつ大切に扱えばより長く使い続けることができます。
愛着が湧く
丈夫な革製品ほど硬くて馴染むのに時間がかかります。
最初は使いづらさを感じ、なかなか使い続けることが大変かもしれません。
ですが、使い込むほどに形が馴染み経年変化もでてくるので、使い込むのが大変な分愛着も湧きやすく、お気に入りの一品になります。
デメリット
馴染むまでに時間がかかる
丈夫な革製品ほど厚く硬い傾向があります。
なので、使い始めは硬くて使いにくいことがよくあります。
ただこれは良くも悪くもで、硬い革製品を使い込んで自分の形に馴染ませることでより愛着が湧いたり、使い甲斐を感じたりすることもあるので、
一概にデメリットとも言えないかもしれません。
重い
丈夫な革製品はそれだけ革に厚みがあることが多いので重いです。
使い始めはまだ良いのですが、長く使っているうちに重さに負担を感じて結果使わなくなることもあります。
機能的でない場合が多い
丈夫な製品は革の厚みを残して作らなくてはいけないため、どうしても簡素な作りになります。
機能的な製品ほど薄く漉かれ裏地や芯材を多用して作られることが多いです。
なので、使いやすい革製品を求められる場合は一度改めて考えてみることをオススメします。
長く使う上での手入れと保管方法
ここまで読んで、やっぱり自分は丈夫な革製品がいいなぁと思っている方。
丈夫な革製品は仮に手入れをしなくても長く使えますが、より長く使うためにはお手入れは必須です。
革によってはメンテナンスフリーと謳われている革もありますが、使っているうちに埃や汚れも溜まっていきます。
なので定期的にお手入れはしてあげてください。
ブラッシング
必要最低限の手入れ方法です。
ホコリや軽い汚れをブラシで落としてあげます。
埃や汚れが溜まっていると革が痛む原因になります。
なので、メンテナンスフリー革を使用した製品も最低限これは行なってください。
また、ホコリを落とすだけではなくブラシで磨くことで艶もでてきます。
特に汚れやすい革靴などはまめにブラッシングしてあげると良いです。
オイルケア
革の手入れと言ったら真っ先に思い浮かぶオイルケアですが、ここで注意したいのが全ての革にオイルケアが適正というわけではないということです。
例えばスエードやベルベット、半起毛の加工をされた革など表面に毛羽立ちのある革や、最初から十分にオイルを含んでいる革の場合です。
スエード等の起毛している革はオイルではなく専用のスプレータイプの保革剤があります。
また、オイルが十分に含まれている革に関しては、使用後にオイルが無くなり乾燥してきたと感じた時に軽く塗ってあげるだけで構いません。
その他の革製品に関しては、使用頻度にもよりますが多くて3ヶ月〜少なくて1年に1回程度軽く塗ってあげるだけで十分です。
ただ、まめに塗りすぎるとオイル過多で革が柔らかくなりすぎてしまい、型崩れの原因になるので塗り過ぎには注意してください。
アイテム別の保管方法
(↑こんな保管方法はだめです笑)
革は基本的に湿気や直射日光に弱いとされています。
なので、保管の際は風通しの良い日陰に保管するようにしてください。
ただ、全ての製品を同じように保管することはこんなんだと思うので、
ここではアイテム別に保管方法を解説します。
レザージャケット
衣類用のカバー(不織布などで作られた風通しの良いもの)を掛け、可能の場合はクローゼットにはしまわずハンガーラックなどにかけて暗所に保管してください。
オフシーズンに入る前に一度ブラッシングやオイルケアをしてあげたあと、オフシーズン中にも一度様子を見てあげて、ブラッシングをしてあげるとより良いです。
革靴
シューズラックに入れる前にオイルケアとブラッシングをし、シューキーパーを入れて保管してあげてください。
また、ラックに乾燥剤を入れたり、オフシーズン中にも一度ラックから出して外の空気にさらしてあげることをオススメしています。
バッグ
使っていない時は購入時に入っていたあんこ(型崩れ防止で入っている紙の詰め物のこと)や、無ければ新聞紙などの紙を丸めて入れて付属の巾着か不織布に包んでしまってください。
また、紙ではなく乾燥剤を入れるだけでも効果があります。
長期保管する際にはしっかりブラッシングとオイルケアをしてあげてください。
財布
日々使うものなのであまり保管はしないかもしれませんが、保管する際にはブラッシングと軽いオイルケアをして、購入時に付属していた化粧箱や巾着に入れて保管してください。
一緒に除湿剤を入れておくとより良いです。
また、財布の場合手脂や汗などで汚れが付着しやすいものなので、市販のレザークリーナーを使用してあげるのもオススメしています。
どうしても落ちない酷い汚れやシミはレザー専門クリーニング店に相談する
長年使っていると、どうしてもシミや色落ちなどは起こってしまいます。
気にならない程度ならばそれも味として楽しめる部分もあるのですが、まれにひどく色移りしてしまったり、直射日光に長時間晒してしまい変に変色したりすることもあります。
そういった時、自分でどうにかしようとして逆に汚れが酷くなってしまうこともあり得るので、大切なものほど専門のクリーニング店に相談してみてください。
相談も基本的には無料で受けてくれるところが多いのでオススメです。
“使用頻度”は一生使えるかどうかに大きく影響する
丈夫な作りの革製品を選び、日々適切なお手入れを欠かさない。
それをしてもなお一生使えるかどうかは分かりません。
それは使用頻度や使い方によって与えられるダメージがあるからです。
仮に年間通して毎日使う革製品は絶対に一生使えません。
断言します。
なので、仮にこれは一生使いたい!と思ったアイテムに関しては、必ず代えを数個持っておきローテーションで使ってください。
もしくは使用頻度を抑えてください。
思っている以上に使うことで製品に与えられるダメージは大きいです。
一生使い続けることと、一生持ち続けることでは意味が違う(飽きの可能性)
一生使うということは、その間に何年もの時間を過ごすということです。
その間に流行も大きく移り変わり(リバイバルなどもありますが)、新しい素材や製法なども生まれてきます。
その間もずっと持ち続けるには極力流行に左右されないデザインを選び、自分の価値観をしっかり持ち続けることが大切になっていきます。
一生使い続けることと一生持ち続けることでは意味が違います。
使ってこそ物に価値が生まれます。
なので、飽きずにずっと愛せる気持ちと製品選びが大切です。
アイテム別に一生使える可能性を解説!
レザージャケット(可能性:大)
レザージャケットは着る着ないがシーズン毎ではっきりしています。
真夏にレザージャケットを着る人はいないですよね笑
また、シーズン中にそれだけしか着ないという方は少数派だと思います。
なので、適切な使用頻度と定期的なお手入れを守ってさえいれば一生着続けることができる可能性があります。
さらに、リペアがしやすいという点もあります。
破れる箇所が大体決まっており、相当な破損でない限りは当て革などで対応ができます。
以上の点からレザージャケットは一生使える可能性が大いにあります。
ただ、着続けられるよう体型を維持するほうが大変かもしれませんが…
革靴(可能性:小〜中)
革靴は革製品の中でも使用ダメージが大きい物です。
なので、基本的に使用頻度やお手入れを守っていても一生使い続けられる可能性は低いです。
ただ、一部革靴コレクターの様なマニアの方の場合、それだけ使用頻度が低くなるので一生使える可能性が上がります。
またソール選びも大切で、グッドイヤーウェルト製法の様にオールソール(ソールの全取替え)ができる物の方がより長く使うことができます。
バッグ(可能性:中〜大)
バッグは使い方によって大きく可能性が変わります。
基本的な作りとして上記した強度の高い革製品の項目をある程度満たしており、代えのバッグを何種類か持っている場合は使える可能性が上がります。
ただ、男性の場合はバッグを数種類持っている方が少ないと思います。
更に、バッグは意外と気が付かないところで角を擦っていたりすることがあるので破れることがあります。
なので、リペア可能かどうかの確認は必須です。
TPOに応じたバッグの使い分けとお手入れをしつつリペアをしながら使うことで長く使うことができます。
財布(可能性:小)
財布は基本的に代えは持つことはないアイテムです。
また、男性の場合ポケットに入れて使用する方が多いので、ダメージが蓄積しやすい製品の1つでもあります。
更に、財布は基本的に毎日使うため使用頻度も抑えることができないので、一生使える可能性が低いアイテムになります。
財布に関しては割り切ってその時に良いなと思った製品を選ぶことをオススメします。
あまり使い古したお財布をずっと使うのも印象が悪いですしね…
まとめ:一生使うことは物によっては可能だが個人的にはオススメしない
最後にまとめると
- 強度の高い革製品を選ぶ
- 定期的に手入れをする
- 適切な保管をする
- 使用頻度を抑える
- 一生使える可能性の高いアイテムを選ぶ
以上を守って使うことで一生使うことができる
愛着を持って長くそのアイテムを使うことは素晴らしいと思います。
僕もどちらかというと一つのものを大切に長く使いたいと思う方です。
ですが、個人的には一生使うことはオススメしません。
というよりも、一生使うことだけにスポットを当てて商品を選ぶことはオススメしません。
僕自身も一生使えたら良いな、という気持ちで選ぶことも当然あります。
ただ、購入する時は一生使うことはほぼ不可能だと思って購入しています。
なぜなら
- 飽きるから
- 更に良い商品が販売されるから
- リペアをするのに買った時以上のお金が掛かるから
- 大切に使う事に気を取られて結局あまり使わなくなるから
- 一生使うことよりその時に使いたいものを選びたいから!
という理由があるからです。
物は人生を豊かにするためのツール
長年革製品を使っていて個人的に思うことは、物は人生を豊かにする道具であってそれ以上でも以下でもないということです。
それは革製品以外でも同じです。
物には値段がついていますがそれは金銭的な価格なだけであって、物本来の価値を付けるのは自分だと思っています。
それが仮に一生モノを見つけたい!といった価値観で選ぶことも当然良いと思っています。
僕もそんな思いで買った製品をたくさん持っています。
なので、読者の皆さんも自分の価値観に合った革製品を見つけてあげてくださいね。
最後までご覧頂きありがとうございました!